昨日、<出とちり>の話をした。
実は、出とちりにも、
ふたつあるのだ。
昨日のは、
自分の出番に遅れた場合だった。
では、
出番前に出たらどうなるか?
っというより、出番前に出るなんて事があるだろうか?
あるのだ。
どんな時だろうか?
今、舞台袖にいて、出番を待っているとする。
舞台上では、役者がペラペラとセリフを喋っている。
毎日聞いている決まったセリフだ。
まだ、出番まで、5分ほどあると思われる。
聞きながら、ふと他の事を考える。
自分のセリフを思い出して、
「ああやってみよう、こうやってみよう」
策略を練ったりする。
ん・・?
あっという間に、出番まで、もうすぐになっている。
一瞬、意識が、あっちへ行っていたようだ。
「よし、そろそろ・・ん・・今日は客が静かな日だな。
そう云えば、この間もこんな日があったな、
え~と、あれは、月曜日だったから・・
いやいや、火曜日だったっけ?
いや待てよ、カレーを食べた日だから・・
ん・・・?あれれ?
だ・だれも何も喋ってない!
えっ、うっそ!
俺の出番が過ぎてしまったのかあ!
出とちったのかあ~!
やべ~~~
取りあえず、出よう!」
ってんで、舞台に飛び出す!
しかしである。
実は、出番まで、まだかなり時間があったのだ。
誰も喋ってなかったのは、
単に、セリフの間が空いていただけだったのだ。
これが、
出番前に出る出とちりの実態である。
出とちられた側は、驚く。
凄く驚く。
そいつが出てきては困る設定なのに、現れたのだから。
しかも、走り込んで来るものだから、
見たくなくても目がそこに行く。
客の目も、役者の目も。
で、どうなるかと云うと、
出とちった役者は、間違いを悟り、
何気ない風を装って、舞台袖に戻るのである。
こりゃ、ずるい。
出とちられた側はたまったものではない。
赤信号なのにフライングして歩きだしたのと訳が違う。
芝居場所によっては、説明できない混乱が生じる。
とはいえ、やっちまったものはしょうがない。
出ちまったものはしょうがない。
そのまま、舞台上に居座るより、いったん引っ込んだ方が、
傷が少ないというものだ。
役者にもよるが、
遅れた出とちりをやった事はあるが、
早まった出とちりの経験はないという人の方が多い。
もちろん、どちらも無い役者の方が、圧倒的に多い。
えっ、イシマルさんは、どちらもやったのかって?
「ん~だから、ないってばあ~」
『嘘つくと、舌抜かれるよ!』
ふんぐっ・・はんぐっ・・・