
「スカイツリー?何それ?」
返事をしたのは、ミョウちゃんだ。
ミョウちゃんとは、舞台<スリーベルズ>で、
共演していた明星(みょうせい)女史だ。
スカイツリーの話をしていた我々に、
突然質問がとんだのだ。
「何それ?」
『だから、スカイツリーだよ』
「知らない」
『スカイツリーを知らない?』
「それって、有名なの?」
『かなり』
恐らく、首都圏在住の方で、スカイツリーを、
今現在知らない人はいないと思う。
詳しくは知らなくても、名前くらいは知っていると思う。
首相の名前は知らなくても、
スカイツリーは知っていると思う。
『テレビとかで、いっぱい報道してるじゃん』
「テレビないもん」
『ラジオとかでも』
「ラジオないもん」
『新聞は?』
「見ないネ」
『字、読めないの?』
「馬鹿な事言ってんじゃないわヨ」
『この稽古場、墨田区だから、外に出れば、すぐに見えるよ』
「え~見た事ない」
『ホラホラ』
「えっ、アレ!」
『そう、アレ』
「ふ~~ん」
毎日、その場所を通っていたにも拘わらず、
見ていなかった、彼女。
見えていたのに、見えていなかった彼女。
人は、意識していないと、
見えるものも見えないのかもしれない。
しかし、その分、
他の事がいっぱい見えているミョウちゃん。
『ねえ、なんでテレビ見ないの?』
「実験」
『なんの?』
「う~ん、なんだろう?」
妙な実験ばかりしているミョウちゃん。
「私、肉食べないから」
『えっ、ベジタリアンなの?』
「ううん、実験」
不思議な女優である。
「あれから、よく見るヨ、スカイツリー」
と、ミョウちゃん。