「本栖湖に石を抱いて潜る」
そんな遊びをしていた日々があった。
どういう事だろうか?
我々、ウインドサーファーが集う、本栖湖畔には、
ささやかなビーチが広がっている。
砂よりやや大きな粒の、砂浜が出艇場所だ。
海で言うところの、波打ち際から、
「あいよ!」
ボードに飛び乗り、高速で走ってゆくのだ。
その波打ち際から、湖は急に深くなっている。
背が届くのは、4mほど。
海底の地形は、40度ほどの傾斜で水中深く、
もぐりこんでいる。
「皆んな、大きめの石を探して!」
イシマルの声が、湖畔に響く。
風待ちの間、
ある遊びに興じようというのだ。
イシマルの手招きに、お馬鹿な連中が、
一抱えもある
石、いや
岩を両手に抱いて、
集まってきた。
「サ、皆んな、波打ち際に横に一列に並んで!」
岩を抱えた仲間が、重い岩を抱えて、猫背になっている。
「ルールを説明するよ。ヨーイドンで、思いっきり走れ!
すぐに水没するだろうから、我慢するべし。
優勝者は、最後に水面に上がってきた者」
斜めの、海底を走るのだ。
岩は身体が浮かない為の
重しである。
「ヨーイ、ドン!」
思いっきり息を吸い込んだ肺の前に、
岩を抱きしめ、海底を走る。
40度の傾斜を駆け下りる。
隣を見ると、歯を食いしばった口元から、
アブクが漏れ出ている友人がいる。
水圧で、胸が圧迫される。
だんだん暗くなる。
耳が痛い。
もうダメだ、岩を離そう。
両隣を見ると、まだ足を動かしている。
クソッ、もうちょい!
ううぅぅ~ダ・メ・だっ・・
岩を捨てる。
上を見る。
うっそ!
水面が遥か上方で、波打っているではないか!
もう息が無い!
足を蹴る。蹴る!
進まない。
あがけどもあがけども、身体が簡単に浮いてくれない。
息が・・息が・・
ぶふぅわぁ~~
水面に躍り出た、私の周りに、
真っ赤な顔をした仲間が、ニタニタ笑っている。
「苦しかったネ、ハアハア」
『うん、苦しかった、ハアハア』
しばらくして、黒い頭がポッカリと浮かんできた。
凄い!
優勝者を称えながら、岸に泳ぎ戻る。
っと、その時、さらに沖で、ポッカリ、
黒い頭が浮いてきたのだ。
真の優勝者は、
ケタが違った。
しかも、興奮気味に喋る。
「ニジマスやら、鯉やら、いっぱいいたネ」
『・・・・』
「1mくらいのオオナマズもいたネ」
『・・・・』
真の優勝者は、
余裕のケタも違った。
しかして、本栖湖畔から、大石が消えた。