屈辱だった。
私はホテルの一室にいた。
かなり優れたいいホテルだった。
鍵を開けて入り、ルームの突きあたりまで、30歩歩けた。
驚きの広さを誇っていた。
一部屋に一つ露天風呂が付いていた。
温泉だった。
温泉浴衣のほかに、白いガウンが常備されていた。
今、ちょっと、ムカっとしかけたアナタには、
最後まで付き合って頂きたい。
カーテンを全部開けるのに、1分かかった。
ベッドは真四角で、どっち向き寝ても、
どっちがどっちでも良かった。
枕が8個あり、抱き枕が2本あった。
さらにムカっとしたアナタに、もう少しだけガマンして頂きたい。
スリッパを探すのに、2分かかった。
冷蔵庫を探し出すのに、10分かかった。
金庫は有ると言われたが、探すのをやめた。
歯ブラシは見つからなかった。
トイレの使い方をマスターするのに、
3回のチャレンジを要した。
ティッシュの箱・・・やっと見つけた。
グラスが見つからないので、洗面所のグラスでビールを飲んだ。
洗面所のグラスが、バーラウンジのグラスに匹敵していた。
そして肝心の、部屋のライトのスイッチを探す。
見つけるまでに、ドラマ一本を見た。
ゴミ箱は翌朝見つけた。
そして何より・・
寒かった。
空調のスイッチを探した。
必死で探した。
いい大人が、空調のスイッチが見つけられない屈辱感に、
泣きそうになった。、
フロントに電話出来なかった。
「あの人、スイッチが見つけられないんですって」
「ばっかじゃないの」
「そんな人、初めて!」
恥ずかしいセリフが浮かんでくる。
で、どうなったか・・・
その後、3日間、毎日スイッチを捜索したが、結局見つけられず、
「寒い、寒い」
を連発しながら、豪華絢爛ホテルの夜を過ごしていたのだった。
ない筈はないのだが・・・
すすき原