~前日からの続き~
「朝ごはんが出来ましたヨ~」
塔ノ岳山頂小屋のオヤジさんの声がかかる前に、
我々は起きだした。
窓の外が、うっすらと白み始めると、
カメラを手に、小屋の外に出る。
サンダルを突っかけて、薄着で飛び出したナカヒラくんが、
慌てて、中に戻ってくる。
「半端じゃないっスっ!」
何が
半端じゃないのか、聞かなくてもすぐ解る。
山小屋の温度計が、
マイナス8℃を示している。
完全防備で黎明の山頂に、踏み出した。
東の空が、見事なグラデーションを見せている。
空気が乾ききり、朝だというのに、
東京の夜景がくっきりと朝焼けの中に、浮かび上がっている。
「おっ、もうすぐだな・・」
日の出が、間近だ。
カメラを構える手が、かじかんでくる。
「出た!」
誰かが、小さく叫んだような気がした。
誰かじゃなかった、私だった。
太陽の最初の光が、私の目を射抜く。
やがて、みるみるうちに、オヒサマは登ってゆく。
早い
しかも、暖かい。
マイナス8℃の空気にさらされ、冷え切ったフトモモが、
太陽に向いている前面だけ、暖かく感じられる。
振り返ると、大きな富士山が
ピンクの山頂を見せていた。
天体ショーはまだまだ続く。
周りに夜の間に漂っていた、雲が、
太陽の熱で、
あっという間に、消え去るのだ。
どのくらいの<あっ>という間かと云うとだね、
ま、朝ごはんを食べ終わるくらいの間だネ。
「うわあ~真っ青!」
誰かが、空を見上げて叫んだ。