
ちょいと昔の話をしよう。
役者ってもの、
顔が命だ。
顔を覚えられてナンボ・・とさえ言われる。
さて、イシマル、25才の時だ。
つかこうへいさんの舞台の稽古が、
真夏に行われていた。
その稽古場に、漫画家が訪ねてきた。
<大友克洋>
《アキラ》の漫画、と言えば、お分かりだろうか。
まだ、アキラが世に出る前だった。
稽古を観ながら、サラサラと筆を運び、
役者の姿をデッサンしてゆく。
風間杜夫、平田満、加藤健一、石丸謙二郎など~
「出来ました」
差し出された作品を見て、思わず皆から、ため息が漏れる。
全員が、ズラリと並んでいる。
あの短時間で、見事なまでの、デッサンが浮かび上がる。
それぞれが、あまりにも
ソックリなのだ。
「コレ誰?」
皆が指差す。
問題は、イシマルだった。
イシマルだけ、顔が
輪郭だけだった。
輪郭と髪の毛だけが描かれ、
中身が無かった。
目も鼻も、眉毛も口も、何にも無い。
つまり・・・
表現する技に、
とんでもない力を発揮する漫画家にして、
イシマルの顔は、あまりにも曖昧だったのだ。
印象が無かったのだ。
印象が薄かったのではない。
無かったのだ。
ゆえに、顔の輪郭以外が描けなかったのだ。
《印象の無い役者》
芝居の世界ではありえない、役者の卵がそこにいた。