「出発ぁ~つ!」
イシマル探検隊の、グリセード専門隊が、
谷川岳のロープウエイ駐車場から、歩き出した。
100m進んだところで、滝田君がつぶやいた。
「イシマル隊長、このたびの
探検のテーマは、何ですか?」
『滝田くん、それはネ、<グリセード>なのだヨ』
「ぼ・ぼくにも出来るかな?」
『ふふふ、私がいれば、怖い物なしサ』
「ところで、イシマル隊長」
『なんだ、滝田隊員』
「グリセードに必要な棒はどこにあるんですか?」
『ん・・?』
「1年前に棒を買いに行き、グリセード用に改良したんですよネ」
『した・・?』
「確か・・車に積んだと・・」
『滝田隊員!』
「なんすか?」
『車に忘れた・・取りに帰ろう』
世の中に、<肝心かなめ>という言葉がある。
世の中に、<いったい何のために>という言葉がある。
グリセードをやるには、木の棒がなければ、意味が無い。
必須アイテムと云っていい。
必要条件が、木の棒である。
その棒を、隊長が『忘れた』と、出発直後に述べているのだ。
例えれば、山に木を切りに行ったキコリが、
斧を忘れたと言っているのに等しい。
例えれば、夕陽を撮りに行ったカメラマンが、
カメラを忘れたと言っているに等しい。
例えれば、スーパーに買い物に行った主婦が、
ポイントカードを忘れたと言っているのに・・は等しくないか。
あ・あまりの事に、滝田くんの空いた口が、
そのまま開いたままになった。
『滝田くん、探検とはナ、障害を乗り越えてゆくものだゾ!』
「は~い」
しかし、このあと我が探検隊は、
さらなる忘れ物だらけに翻弄されるのだった。