
「ねえ滝田くん、オニギリは2個あるよネ」
『うん、2個ある』
「パンはどこやった?」
『隊長が持ってたハズだなあ』
「ない・・」
『ない?』
「それと、非常用のチョコレートは持ってる?」
『それも、隊長が「おれが持つ」と』
「ない・・」
『ない?』

斜度40度の雪渓にうずくまり、
オニギリ2個に命運を繋ぐ羽目になった、我ら探検隊は、
隊長のふがいなさを嘆くのだった。
高度を稼ぐにしたがって、空が晴れ渡ってきた。
雪が太陽の熱に溶け出し、ややユルくなり始めた。
アイゼンの利きが弱くなる。
ズルズルと滑る回数が多くなる。
20m登っては、5m滑り落ちている。
そんな時だ。
滝田くんが、
滑落予防の歩き方を発見した。
《かかとに体重をかけない》
横向けに一歩一歩登っている我ら。
雪に足を蹴込むようにして、一歩を踏み出している。
その蹴込む足の
つま先に全体重をのっけるのだ。
すると、あ~ら不思議、ちっとも滑らなくなったのだ。
たった数時間で、この登り方を発見した滝田くんは、さすがだ。
と、振り返ったら、
ズズズゥゥゥ~~~
又、滑り落ちている。
ちょっとでも気を抜くと、やはり滑るらしい。

いったい斜度は何度になったのだろう?
転ぶことが許されない雪のガケを登っている、と云っていい。
帰りに、この雪坂を滑り降りるのだと、説明したら、
グリセード初心者の滝田くんは、黙ってしまった。

空が、青色を通り越し、群青色に近づいてきた。
空というより、我々が目にしているのは、もはや、
《宇宙》
どこかに、星が見えているのではないかとキョロキョロする。
「あっ、人工衛星だ!」
指差した先に動いていた光は、
急速に飛行機の形になってゆく。
狭い難所をクレパスを避けて、通り過ぎる。
まもなく稜線に出る。
稜線には、オーバーハングした雪尻(せっぴ)が、
5mの高さで張り出している。
アレが、崩落したら、雪崩どころの騒ぎではないな。

登頂!
一の倉岳 1974m

山頂には、非難小屋が昔のまま残っていた。
38年前に、落雷で逃げ込んだ小屋だ。
<10人仕様>と当時の案内書に書いてあったが、
2人が泊まれば、喧嘩になりそうである。
さすが、非難小屋。
いよいよ、グリセードだあ~
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過去ログ、2006;9月1日
地震雷火事オヤジ