
イシマルは、存在が希薄である。
昨日の事だ。
旅番組で、ある駅に集合になった。
ある駅の、A1出口に、来いという。
行った。
出口の階段を上がってゆくと、
おお、明らかにAD(アシスタントディレクター)
とおぼしき男が、立っている。
近づいていく。
ん・・?
彼は、反応しない。
私は、帽子もサングラスもしていない。
むき出しのイシマルだ。
どんどん近づく。
彼は、私の奥を見ている。
通り過ぎた。
(なあ~んだ、AD君じゃなかったんだ)
とはいえ、道路に出ても誰もいない。
しばらく待とう・・・
するとである。
「あ~もう着いてたんですか、おはようございます」
先ほどの男が、挨拶をしてくる。
ええ?ええ~?
さっき、君の1m前を通り過ぎたんですけんど・・
どうやら、イシマルは
透明人間らしい。
10数年前の事だ。
札幌は千歳空港に降り立った。
「迎えの方が来ているから安心して」と言われていた。
安心して、出口に向かった。
大勢の出迎え人と、大勢の到着人で、ごったがえしていた。
ま、さして顔の知られていない役者であるけども、
そのうち見つけてくれるだろうとタカを踏んでいた。
やがて、どんどん人は去り、
ついに、ベンチに座るイシマルと、背広を着た男だけになった。
彼は、キョロキョロあたりを見回す。
我、思うに、
迎えに来て、他に誰もいなくなったら、まず、
たった一人いる人間に・・
「あのぉ~ひょっとしてイシマルさんですか?」
これが、当たり前の発想だろうと思う。
ところが、彼は、案内係に歩みより、
館内放送に及んだのである。
「羽田よりお越しのイシマル様、お迎えの方がお待ちです・・」
千歳空港中に放送される恥ずかしい繰り返しを阻止する為、
すぐそこに居る、彼に、手を挙げたのは言うまでもない。
「ああ~着いてたんですか、おはようございます」
判で押したような挨拶が返ってくる。
どうやら、私は見えないらしい。
存在が、極めて希薄らしい。
「そんなバカな!」
と、イスの背もたれにのけぞったアナタには、
過去ログを、プレゼントしよう。
2006年、2月5日
《存在の希薄さ》