<梨本謙次郎>という役者がいる。
渋くて真面目な男である。
時折、石丸謙二郎は、彼と名前を間違われる事がある。
「ナシモトさ~ん」
は~いとは言えないのだが、
「違います!」
と声を荒げるのも大人げないので、
あいまいに誤魔化しておく。
その梨本謙次郎本人に、先日、ドラマの現場で出会った。
「よ、元気」
『ええ』
役者の挨拶は、そっけなくていい。
『アレッ石丸さん、もう来たんですか?』
「うん、12時入りだから、」
『それ、ボクの入り時間ですよ』
「え~~~?」
どうやら、スタッフがミスしたらしい。
そのミスの原因が、その場で判明した。
なんと!
石丸の役名が、<梨本>なのだ。
梨本の役名は、<杉田>である。
役者界でも、よく間違われる二人なのに、
梨本役を石丸が演じている。
非常にややこしい。
スタッフも、現場で名前を呼ぶ時、四苦八苦している。
「じゃ、次、梨本さんいきま~す」
??? ・・??
「え~と、本物のほうで、」
『梨本さん、どうぞこちらへ』
??・・・???
「あっ、いや、ニセモノのほうで」
(ニセモノ・・?)
そこまでは、なんとかなったのだが・・・
スタッフも混乱してくると、とんでもない事を言い始める。
「では、ここで、梨本さんが、マイクを梨本さんに渡して・・」
?・・・?
石丸の方は、まだ気楽なのだが、
梨本的には、たまったもんではない。
「ナシモト」と呼ばれるたびに、
いちいち反応しなければならないのである。
「はい?」
これから、共演する時は、胸に名札を付けよう!
誓い合った二人である。