芝居の旅公演で、全国を廻っていると、
様々な劇場にいく。
様々とは、言葉通りで、形も大きさも様々だ。
その中で、我ら役者が一番気にしているのは何か?
<残響> (ざんきょう)
客席における、残響だ。
響き具合とでも言おうか・・
ふむ、
残響とはなんぞや?
では、洞窟を例にとろう。
大きな地下空間で、声を出すと、ワ~~ンと声が響く。
3人がいっせいに喋り出すと、
何を言っているのか解らなくなる。
それは、残響が大きいからだ。
では、床や壁天井に、
吸音板を張り巡らした部屋を例にとろう。
(そんな部屋行った事ないって?まあいい)
耳がおかしくなりそうな感覚になる。
残響が、ゼロに近いのだ。
自分が吐いた言葉が、
どこかへ行っちまって、帰ってこない。
ナレーションの録音室がそうだ。
だから、ナレーターは、イヤホンをして、
自分の声を機械を通して聞いている。
さて、劇場だ。
私は、劇場に入り舞台に立つと、まず、手を叩く。
パンッ!
このパンッで、残響量が、だいたい解る。
長年、パンッをやっているので、
残響の数値まで解るようになっている。
「残響に数値があるんですか?」
アナタの疑問に答えよう。
数値は、0~1,2、3、という具合に表わされる。
小数点以下もある。
パンッ!
「ふむ・・ここは、2,8だな・・」
パンッ!
「ほお、3,5もありますか・・」
私のつぶやきに、音響さんが、その通りとばかりにうなずく。
パンッ!
「おっ、2を切ったゾ、芝居がやり易いなあ~」
そう、
芝居をするには、残響は、少ない方がやり易い。
ワンワン響くのでは、何を言っているのか解らなくなる。
に対して、コンサートや歌では、ある程度の残響が欲しい。
3を超えるのが望ましい。
お風呂場で歌ったら気持ちがいいと云えば、解るかナ?
(風呂場は、3を超えている)
「イシマルさん、2とか3とかどうして解るんですか?」
さあ、そこだ。
そこで、マシンが登場する。
<残響測定装置>
そんなものが有る。
そんなもので、時折、測っている方がいる。
その横で、盗み見するのだ。
(ふ~ん、これで2,4か・・)
(ほお、3,6とは、これほどなのか・・)
(1を切ったら、キンキンじゃ~ん)
盗み見は、私の耳の感覚を研ぎ澄ます。
パンッ
イシマル 「2、7でしょ」
測定員「残念! 2,6」