
「あの噴火口の中に見える水が無くなったら、
阿蘇が噴火する時じゃな」
子供の頃、連れて行ってもらった阿蘇山の、
火口を覗きながら、大人が自慢げに喋る。
『見た事あるの?』
けんじろう君がたずねる。
「あったら、噴火中じゃろが、死んじょるじゃろが」
阿蘇の噴火口は、青緑色の水(お湯)がたぎっている。
噴煙が多くて、なかなか見る事が出来ない。
それでも運が良いと、チラっと、そのお湯が見える。
最近見たときには、これまで見た中で、
もっとも水量が少なかった。
水面が後退していた。
噴火近しか?
「ねえねえもし、今、こうやって見ている最中に、
噴火が始まったらどうすんの?」
アナタの不安を解消する為に、
火口の傍には、待避所がある。
<シェルター>
コンクリー製の頑丈なヤツだ。
少々の岩が振ってきても、なんとかなるらしい。
少々じゃない岩だとどうかは、定かでないが、
無いよりましなのは、確かだ。
ドロドロの溶岩が流れてきたら、どうか?
たぶん・・ダメだろナ。
シェルターと言えば、聞こえがいいが・・
その昔のオヤジ世代は、コレをこう呼んでいた。
<トーチカ>
戦争世代には、このコンクリーの待避所が、
大砲をぶっ放すトーチカを連想させるのである。
「オレは噴火しても、死んでもトーチカには入らん!」
我が父親は、
トーチカが嫌いだった。
コレはシェルターなんだと説明しても、
「二度と入らん!」
頑としてシェルター見学を拒んだ。
嬉々としてシェルターに潜り込む次男坊を、
哀れむように見ていた。
今思えば、たかがその10年ほど前に、
シベリアに抑留されていたのだから・・
さもありなん。
そうか、トーチカってロシア語か!
