
「オレ、木村伊量(きむらただかず)、君は?」
『いしまるけんじろう』
タダカズなんぞ読める筈もなく、それ以来
<イリョウ>と呼んでいる。
その後、高校でも同じクラスになり、
大学でも、アパートの隣の部屋に暮らしていた。
よく勉強をする奴だった。
大学の受験勉強ならいざ知らず、
大学に入ってからも、あれほど勉強する奴は見た事がない。
ラジオのFeN(在日アメリカ人用)局を聞きながら、
真夜中まで、机に座っていた。
コンコン(ノックの音)
私が、邪魔しない限り、勉強に没頭していた。
「どっか行こうゼ!」
私が邪魔しなかったら、
かなり偉い人になったかもしれない。
そして、大学を卒業するや、朝日新聞に入社した。
ふ~ん、新聞記者になりたかったのか?
その時、思い出したのだ。
中学の頃、イリョウの父親が、
イリョウと私を呼びつけ、諭したのだ。
「いいか、将来、
ヤクシャと
ブンヤにだけはなるなよ」
ヤクシャという職業がわからず、
よもや、ブンヤにいたっては、思いも付かない我らは、
その言葉だけを、記憶の隅に留め置いた。
あれから、50年近く・・
一人は、ヤクシャになり、一人はブンヤになった。
言霊(ことだま)ってのは、ほんとにあるようだ。
そのイリョウから、葉書が届いた。
「社長になった」
独立して会社でもおこしたのかと、尋ねると、
朝日新聞の社長になったんだと、言う。
ふ~~ん、それって、たぶん、偉いのかな?
よし、今度、社長室を観にいってきよう。
(又、邪魔かなあ)