
春の借景の季節がやってきた。
隣の公園のソメイヨシノと、我が家のボケである。
ソメイヨシノは、毎年、
わが眼を潤し、鼻をひくつかせ、
真紅のボケの掩護も手伝って、
春を完璧に演出してくれる。
そのソメイヨシノが、
いつの間にやらスクスクと大きくなっていた。
枝が、頼みもしないのに、我が家の方に伸びて、
もう少しで、敷地に届こうとしている。
この調子だと、鬼が笑う頃には、垣根を大きく越えるだろう。
超えたとしても、
《桜切るバカ、梅切らぬバカ》
格言があるように、桜は切れぬ。
たとえ、軒下に伸びようとも、窓に届こうとも、
ほおっておかねば、ならぬ。
そのうち、借景をあらため、
<客景>と呼ぶ日がくるかもしれない。
「さくらさんがおいでですよ」
「まあまあ、ようこそいらっしゃいました」
そして将来、枝は、我が家の主要部分にも入り込み、
主権を主張し始めるかもしれない。
そのときは、こう呼ぼう。
<居候景> (いそうろけい)
「おい、三分咲きは、そっと出せヨ」

じわり