
日本ケービング協会の会長の吉田さん。
身体が柔らかい吉田さん。
丈夫が信条の吉田さんがあるとき・・
300mの竪穴にもぐっていた時だった。
日本は、穴ポコの島である。
未知の洞窟だらけといってもいい。
今見つかっている洞窟なんて、ほんの一部かもしれない。
そんな未踏の洞窟に吉田さんが挑んでいる。
その日も、未踏の300mの竪穴に下降したのであった。
300mと簡単に言ったが、
地下に向かって300mを想像できるだろうか?
300mの水のない井戸を、頭で思い浮かべられるだろうか?
東京タワー(333m)が、
そのまま洞窟になったと想像してみよう。
その底に降り立った吉田さん。
「やばい!」
カラカラという音を聞いたのである。
その音は、上の方から響いてきた。
(落石?)
危険回避能力に秀でている吉田さんは、とっさに、
壁に張り付いた。
山岳系での落石は、岩に張り付けば、当たる確立が減る。
落ちてくる石は、跳ねながら落ちるので、
岩から遠く離れる傾向がある。
ところが、そこは、洞窟だった。
カ~ン、コンコン、カ~ン!
跳ねるものの、狭い竪穴の壁にぶつかりながら落ちてくる。
カ~ン、ゴン!
吉田さんの耳近くに、最後の『ゴンッ!』が届いた。
頭大の石が、左肩に当たった。
左手の感覚がなくなった。
都会であれば、救急車を要請する怪我である。
(戻らなければ・・)
穴を登らなければ、怪我による衰弱死が待っている。
右腕一本で、300mの竪穴を登らなくてはならない。
具体的には、アッセンダーという器具を使って、
一本のロープを尺取虫のように、登るのだ。
とはいえ、右腕一本で操れるだろうか?
はて・・どうするか?
ここは、洞窟だ。
ヘリコプターだの、救助船だのは来ない。
自分でなんとかするしかない。
仲間も、300m上にいる。
救出に降りてはこれない。
いってみれば、絶対絶命!
どうする吉田さん!
答えは、実にシンプルであった。
《登るしかない》
映画のように、劇的な何かは起こらない。
都合よく誰かはやってこない。
ただ、自分が登るしかない。
自分を助けるのは自分だけだ。
そう・・ひたすら登った・・右腕だけを頼りに・・
結果・・《
33時間かかって、300mを登りきった》