
北海道の飲み屋に入ると、北海道しかないメニューに出会える。
例えば、ザンギ。
これは、鳥のカラアゲである。
例えば、ルイベ。
これは、鮭の凍った状態を、刺身にしたモノだ。
例えば、<
カニの甲羅揚げ>
これは、ズワイガニの甲羅の中にグラタンを詰めて、
油で揚げたモノだ。
「カニの甲羅揚げでございま~す」
テーブルに届けられた熱々のグラタンに皆、ハシを突きだす。
店によっては、スプーンが添えられていたりする。
ズワイガニの甲羅の隅々まで、つついてどうぞとの、嗜好だ。
「お皿、お下げしま~す」
宴もたけなわの頃、空いた皿をさげに店の方がくる。
その皿を持った途端、ギョッとした顔で、モノ申す。
「こちらに入っていた甲羅は・・?」
テーブルの面々が、グルリと首を回し、私を見る。
皆は、カニ甲羅揚げの皿の上に、甲羅が無い事を知っているのだ。
カニ甲羅揚げの甲羅とは、ウツワである。
ウツワの中のグラタンを食べる料理である。
ところが、私のテーブルに辿り着いた結果、
私によって、その
ウツワそのものを食べられてしまったのだ。
いや、表現を正確に記そう。
ウツワそのものを食べたくて、注文したのだ。
バリバリバリ! ガリガリガリ!
「硬いか」と問われれば、それは硬い。
「歯に刺さりませんか」と問われれば、イヤになるほど刺さる。
「旨いのか」と問われれば、まあそれなりにである。
「じゃあ、なぜ
かじるのか」と問われれば・・
美味そうに見えるからだ。
美味しそうな物体が、
皿にのったまま片づけられるのが、許せない。
回りのテーブルを見回すと、
カニの甲羅揚げは人気料理と見えて、テーブル上に、
甲羅の残骸が転がっている。
その美味しそうな残骸が、片付けられてゆく。
(それって、捨てるですか?捨てるですか?)
カニへの想いを込めて、
ガリガリガリ、バリバリバリ!