「昼間、何かとんでもない事やりましたぁ?」
夕方、いきつけの整体で、整体師が私の足を触った途端、
ギョッとしてのたまったのだ。
そう、昼間・・
ドラマ《刑事110キロ》の撮影をしていた。
主演は、110キロの体重を誇る、マイウ~のいっしゃんである。
神社の階段でのロケ中、休み時間に、
ふとつぶやいた。
「いっしゃんてさ、
おんぶされた事ある?」
『ないですネ、あっ以前、吉田沙保里さんに一度』
「あのレスリングの金メダリストの?」
『おぶさって』
「よし、ちょっとお願いがある」
無理を承知で、
私の背中におぶさって貰ったのだ。
110キロとは、実は乾燥体重のことで、
実質は120くらいはあるらしい。
常に変動しているので、正確な数字は本人でも言えない。
というよりも、100キロ以上測れる体重計は、
そんじょそこらにない。
「よいしょっ!」
おんぶした。
もの凄い重圧がきた。
これまで、担いだ人間の中で、破格に重い。
骨がギシっときしむのがわかる。
ふと前を見ると、神社の階段があった。
何を思ったか登り始めた。
一歩階段を登るたびに、全身の筋肉が絶叫している。
10段程登ったところで、重大な過ちに気付いた。
もし、私がこけたら・・・どうなる。
階段にいっしゃんを落としたら、その体重のセイで、
彼は、
大けがを負うのだ。
普通の人間が落ちるのではない。
成人の二人分の体重が落下して、階段に叩きつけられるのだ。
主演をケガさせるなどもっての他だ。
「お・おろすヨぉ~」
無事踊り場に、主演男優を降ろして、ことなきをえた。
「いったい昼間何をしたんですか?」
整体師の怪訝な顔に、ほほを膨らまし、うめいてやった。
「もの凄く重い人間をおんぶしたんでネ」
「ほお、プロレスラーですか?」
「いや、もうちょっと・・やわらかい人・・」
「関取り?」
「・・みたいに食べる人」