
《キュウセン》という魚をご存知だろうか?
関東でベラ、関西でギザメと呼ばれる魚のオスである。
緑色の美しい模様をしている。
熱帯魚と言われれば、ああ、そうかとうなずく。
ベラのオスは、極端に少ない。
キュウセンが釣れると、釣り人は、
「わあ~キュウセンだあ~!」と騒ぐ。
食べ方を知らない人でも、「わあ~」までは騒ぐ。
昨日の釣り行きで、私も騒いだ。
「うわあ~キュウセンだ!キュウセンだ!
キュウセンが釣れた!キュウセンが釣れた!」
船を降りるまでに、
20回くらい「キュウセン」を口にした。
関西以西の飲み屋に入り、
壁に貼ってある<本日のおすすめ>コーナーに、
キュウセンを書いてある店は、信用していい。
<キュウセン入りました>
そうそう手に入らないキュウセンを刺身で出してくれる。
お値段もそれほど高くない。
所詮という言い方をすれば、ベラには違いないのだ。
カワハギ釣りに行って、ベラが釣れると、
ポ~ンと海にほおるオジサンにとっては、食えない雑魚だ。
そんな魚に、お金を払うなんて・・
しかし、ベラも、貴重なオスとなると、
価値があがる。
実は、このキュウセン。
生まれた時は、メスだったのだ。
ベラ系の魚は、みんなメスばかりが生まれてくる。
やがて繁殖期が近づくと、そのうちの一匹が、
オスに性転換する仕組みになっている。
突然オスになったキュウセンは、たぶん驚くのだろう。
「うわ~滅ッ茶モテルんちゃう?」
メッチャかどうかは知らないが、
一夫多多多多々妻には間違いない。
それにしても、このキュウセンという名前の語感・・
変である。
他の魚とは、全く違う呼び方だよネ。
漢字だと、<九線>とか<求仙>。
魚図鑑では、こう書いてある。
《スズキ目ベラ亜目ベラ科キュウセン属 キュウセン》
試しに、刺身で食べてみた。
メスと違って、非常に歯ごたえがあり、
カレイのような旨味があった。
この命名は、
あまりにも旨いので、戦も休戦かとさえ思ってしまう。
さ、アナタも、水族館に行って、
この緑の魚体を見たら、騒ぎましょう。
「キュウセンだ!キュウセンだ!・・・」

キス(左)と(右)キュウセンの刺身