「東京タワーに登りたいなあ~」
突然言い出したのは、洞窟探検家の、吉田勝次さんだ。
「ボクが中学校の時の修学旅行が、東京タワーだったのネ」
『中学生の吉田さんも登ったんだ』
「でも怖くて、エレベーター降りて、ずっと柱しがみついて」
『外は見なかったの?』
「
高所恐怖症でサ」
なぬ?
普段洞窟の中で、200mだの300mだのの堅穴を、
ロープ一本で、ぶら下がっているアナタが言う言葉かい?
《高所恐怖症》
「ソレが、治ったかどうか確かめたくて、ぜひ東京タワーに!」
そいつを懇願されちゃあ、行かざるを得ないわナ。
行った。
二人で、東京タワーの真下に立ち、のけぞった。
思えば、私も、東京に出てきた17才の時に、
一目散に、東京タワーに駆けつけ、
エレベーターに乗った記憶がある。
地上150mの展望台で、大騒ぎした青年だった。
「うわあ~ビルの頭が見えちょる!
車っちゃ、縦に長えなあ~
霞ヶ関ビルっちゃ、たいしたことねえな!
あら、富士山じゃねえか!」
まだ、新宿都心ビルも、サンシャイン60も、無かった時代だ。
高さと量の目安に、霞ヶ関ビルが常に登場していた頃だ。
「この夏のビール消費量は、霞ヶ関ビル2杯に達し・・」
アナウンサーが、霞ヶ関ビルを連呼していた。
しかし、それ以来、たずねていない。
つまり、42年ぶり・・
「上部の展望台へは乗り換えになります」
エレベーターのお姉さんがおっしゃる。
最近、東京タワーは、上部の展望台が出来たそうだ。
スカイツリーが出来たセイで、集客に力を入れていると思われる。
「途中、ガタという音が鳴りますが、ロープのゆれ止めですので、
ご心配いりません」
アナウンスが「ガタ」という音の説明をしてくれる。
しかして、250mの高さまで上昇!
ガタ!
した・・・音が。
さっきの説明がなかったら、ちょっと怖かった。
エレベーターの扉が開き・・吉田さんが一歩踏み出す。
果たして、目を開けていられるのだろうか?
スタスタと窓際に歩み寄る。
ポケットからカメラを出している。
窓ガラスにくっつけてパシャパシャやっている。
『吉田さん、怖くないの?』
「う~ん大丈夫みたい」
『治ったんだネ』
「ヒトは、成長するもんだな」
『良かったね、高所恐怖症が治って』
「でも、ボク、
閉所恐怖症でもあるんだよな~」
おいおいホントかよ?
日本きっての洞窟探検家が、
高所恐怖症で、閉所恐怖症だったの?
じゃあ、閉所恐怖症が治ったかどうか、
今から確かめに行こうかい?
とんでもない洞窟へ!