釣り宿《広川丸》 (ひろかわまる)
神奈川県の、走水(はしりみず)なる場所にある。
釣り宿とは、
遊漁船で、魚を釣らせてくれるお店の事である。
宿という名称が付いているからには、泊まれる。
しかし、大概は、泊まらない釣り客であふれている。
広川丸は、私が、25年来通っている釣り宿だ。
ここでは、とびきり大きなアジを釣らせてくれる。
走水という場所は、その名のとおり、
東京湾の中でも、海流が,
川のように速いスピードで流れる特殊な場所だ。
ゆえに、力強いアジやサバが育つ。
大きくなる。
どれくらい大きくなるかと云うと・・
常日頃、スーパーに売っている刺身用アジは、
20センチ前後である。
大きくても、30cmほど。
しかし、ここ走水のアジは、ゆうに、40センチを超える。
私が、これまでに釣った最大は、50センチである。
50センチのアジを想像できるだろうか?
今、椅子に座っているなら、足のヒザから下を見てほしい。
アナタの足の裏から、ヒザの上までの長さが、
ほぼ50センチだ。
「んな馬鹿な」とつぶやいたアナタの為に、
私が今、巻尺を取り出して計ったから間違いない。
広川丸に通いつめている私であるが、
釣り人としては、ヘタクソである。
周りの客の中では、ダントツに
釣れない人なのだ。
釣り番組を見て、日々研鑽研究しているつもりなのに、
何故か、私の釣り糸には、アジがかかってこない。
釣り宿の記録が新聞に載ると、こういう風に書いてある。
船中アジ 33cm~48cm
3~25匹
10人くらいが乗船した場合の、一人々々の記録だ。
この場合、私の記録は、
33センチのアジが3匹である。
運動会におけるビリだ。
あまりのビリっけつに、広川丸のおっかあも哀れに思い、
帰りに、常連さんが釣ったアジやサバをプレゼントしてくれる。
1匹も釣れない日でも、帰りのクーラーボックスは賑やかだ。
夜の酒宴が、楽しみになる。
しかし、なぜ、私だけこんなに釣れないのだろう?
どうやら、私の
殺意がアジに伝わっているふしがある。
テグスを通して、刺身にしようとする私の意図が、
漏れているのかもしれない。
広川丸に掲げられたイシマルのアジ写真