「誰も歩いていないかもしれないので・・」
石丸峠に向かおうとしている我が石丸探検隊2名に、
山小屋のご主人が、後ろから声をかけてくれる。
小屋を出ると、すぐに足は雪に埋まった。
4月とは云え、残雪は50~100センチある。
そこは山梨県
日本で唯一<石丸>の名前を冠する石丸峠に、向かう我ら。
「雪の深さはどれくらいか、行ってみないと・・」
ご主人の言葉をありがたく拝みながら、
アイゼンを蹴立てて、突き進む。
「最近誰かが歩いた形跡がないナ」
残雪には、ずいぶん前に付いただろう僅かな足跡しかない。
その代わり、鹿の足跡は無数にある。
ヒズメが二つに割れているので、鹿だ。
鹿も、人間がこしらえた道を歩いている。
歩き易いのだろう。
ズルイな。
石丸峠は、おだやかな鞍部にあった。
美しい熊笹の草原だった。
しかし、お隣にある大菩薩峠に比べて、
人気がないらしく、
足跡が少ない。
マニアしかやって来ない峠であるようだ。
こんなに美しく
天上の楽園っぽいのに・・
しかし、これでいいのだ。
石丸峠とは、来たい人だけが来ればいいマニアックな峠だ。
《人気(にんき)がない》のではなく、
《人気(ひとけ)がない》と読んでいただこう。
「
石丸峠って、
人気がないんだって?」
『だからぁ、滝田くん、
ひとけって言いなヨ』
石丸峠