築地魚河岸の入り口にあるこの店。
《きつねや》
モツ丼の店だ。
広い道路に面しているので、否が応でも目につく。
間口はとても狭い。
客が座れるイスも、4つ5つだ。
殆ど往来で客に食べさせていると言っていい店だ。
店の中では、大きな釜に、焦げ茶色の物体が、
グツグツと煮えくりかえっている。
モツ丼と云うからには、何かのモツが煮えていると思える。
しかし年配の女性が、シャモジでかき回しているサマを見ると、
どうしても・・・
その昔、子供の頃観た映画で、
森の中にいる魔法使いのオババが、
怪しげな鍋をグツグツやっていたのを思い出す。
鍋の中から、何やら引っ張り出すと、
シャレコウベだったりしたものだ。
この店の名前も、《きつねや》と何やら、あやしい。
化かされても文句は言えまい。
しかし、化かされたつもりで、入店してみるのもアリだ。
入店と云っても、ノレンはないのだが・・
歩道にある
丸椅子に座る=入店となる。
座る=モツ丼を注文したと受け取られる。
あとは、ご飯の量を訴えでるしか、する事がない。
オババが・・失礼、オバちゃんが、ご飯を盛った丼を左手に持ち、
お玉を、鍋の中に、ドブリと突っ込む。
二回ほど掻きまわす。
すべてが焦げ茶色に染まった中から、ピロピロとした物体やら、
ドロリと、裏返る固形物が、うごめく。
ズボっ・・
お玉があがる。
ご飯にかけられる。
慣れたもので、周りに飛沫が飛び散るなんて事はない。
見事に、丼の中に収まっている。
ホワ~ン
甘い香りがひろがる。
割り箸を突っ込む。
コレは、持ち上げて食うモノではない。
掻き込む食い方が正解だ。
それも、ガツガツではなく、ジャブジャブである。
ふむ、思いのほか濃厚ではないじゃないか。
むしろ、アッサリと言えるかもしれない。
脂ギトギトと思い込んでいたのだが、このジュルジュル感は、
コラーゲンだ。
身体に優しいコラーゲン丼なのだ。
それが証拠に、むくつけき鉢巻オジサンに混じって、
若き女性が、ジュルジュルやっているではないか!
そして、森の中の魔女も、
よくよく見れば、優しいオバちゃんであった。