え~今日は・・
「ひょっとしてイシマルさん、
又、魚河岸の話じゃないでしょうね?」
すまない、ひょっとして、その魚河岸の話だ。
毎日毎日、飽きもせず、その話で申し訳ない。
それほど私が、魚河岸に惚れ込んでいたという話だ。
今から、36年前、24才の時だ。
魚河岸の、<星庄(ほししょう)>という仲卸の店で、
アルバイトをしていた。
朝、5時から12時まで、大八車に魚を満載にして挽きながら、
「カネハチ、さんまぁ~!」
大声で、茶屋(ちゃや)と呼ばれる集積地に、魚を運んでゆく。
すると、そこにカネハチさんのトラックが待っており、
大量のサンマを都内の某所へと、運んでゆく。
ターレーの免許。
魚河岸の中では、ターレーと呼ばれる車が走っている。
台車が走る仕様になっているトラックだ。
これに乗るには、原付免許がいる。
当時、普通免許を取得していたイシマルは、
すぐに、乗せて貰えた。
こいつを運転すれば、大八車を力づくで引くより、
楽なのは当たり前。
誰もが乗りたがった。
そこに一人の中年の男性。
男気一本、魚家業を絵にかいたようなオッチャンだ。
オッチャンは、原付免許取得の為、
試験にチャレンジしていたのだ。
それも、何度も何度も・・
「何回目なんですか?」
『20回は超えたな』
なぜ、そんなに落ちるのだろう?
車の免許試験を経験した方なら、解るでしょうが、
あの筆記試験には、《ひっかけ問題》がある。
どうやら、オッチャンは、
このひっかけに引っ掛かっている節がある。
例題問題を見せて貰った。
【盆暮れの振る舞い酒なら、少しなら飲んで運転してもよい】
『そら、○やろ』
「オッチャン、×ですよ」
『なんでや、振舞われてるのに断ったら、失礼やろ!』
男気が、髪を五分刈りにして歩いているようなオッチャンだ。
何度試験に落ちても、曲がった答えは嫌いなのだ。
あれから40年近く、ご存命なら90を超えておられるだろう。
男気を貫き、落ち続けたのだろうか?
それとも、ついに取得した原付免許をお守り袋に入れて、
街を闊歩してくれているのだろうか?