大きな劇場には、<セリアガリ>なるものがある。
舞台の一部分が、リフト装置によって、盛りあがってゆくのだ。
一畳ほどの大きさであったり、二畳ほどもあったり、
京都の<南座>では、そのセリが大昔から使われている。
昭和4年に出来たこの芝居小屋は、多くの観客に支えられてきた。
歌舞伎座に似た日本の寺を彷彿とさせる重厚な建築物。
内部に入ると、赤い提灯が多数ぶら下がった三階建て。
残響がほどよく、セリフが聞こえやすい。
芝居をするには、最適の小屋に仕上がっている。
さあ、そのセリだ。
お客側から見ると、静かに静かに上がってくる。
役者は立っているだけだ。
では、立っている役者はどうかと云うと・・
これが又、実に快適な乗り物なのだ。
動き出しの衝撃は全くない。
目をつぶっていれば、いつ動いたのかすら分からない。
止まりも同じだ、スムーズである。
この動力は、電力によるモーターだ。
そして、歯車は、アプト式になっている。
いわゆるスイス登山鉄道に使われている、
歯車を噛んで登ってゆくシステムだ。
こいつはスピードこそ出ないが、確実性が売りだ。
アクシデントという例外を除外してくれる。
これまで、様々な乗り物に乗ってきたものだが、
セリは初である。
そして、もうひとつ、初体験があった。
<スッポン>
同じく、電動で、舞台上に登場するのだが、
場所が舞台上ではなく、花道なのだ。
花道に穴ポコが空く仕組みだ。
この装置、昔は人力だったのだ。
人が、ロープを引っ張って、ヨイショヨイショと持ち上げたのだ。
体重の重い役者は、袖の下をたくさん包んだかもしれない。
「楽しいですか・・スッポン?」
『はい、面白いです!』
楽屋口の入退場表示盤