愛媛県の松山から船に乗り、10分ほど揺られると、
ひょうたん型の島に到着する。
《興居島》 ごごじま
人口1800人あまりの瀬戸内の島だ。
この町、いや、村を歩くと、家々の表札に目がいく。
「石丸」「石丸」「石丸」・・・
あっちにも石丸、こっちにも石丸。
タクシー会社も、石丸タクシー。
港で、「イシマルさあ~ん」と呼びかけたら、
10人ほどが振り向いた。
石丸さんの大集合だ。
「ルーツはココだったか!」
思わず、天を仰ぐ。
思えば、島の西側の海の向こうには、大分県の山波が見える。
そこには、石丸川がある。
私の爺様たちは、山口県の海沿いの町に住んでいた。
なるほど、瀬戸内のこの辺りを根城にしていた節がある。
ある説によると、
源氏に追われた平家の落人が、
この辺りの島々に逃れたと言われている。
石麻呂さん一族郎党が、逃れ逃れて、名前を変え、
石丸と名乗り、隠れ住んだというイシマル説もある。
だったらバレないように、もっと名前を変えて、
「牛丸」にした方が良かったのではないか?
というお叱りもあるが・・・牛はいかがなものかと、
同情の声もチラホラ。
さて、興居島で遊び過ぎて、
帰りのフェリーに乗り遅れてしまうた場合、
どうするか?
あるいは、松山で夜遅くまで、痛飲してしまい、
島に帰れなくなった場合、どうするか?
その時に、活躍するのが、
《海上タクシー》
数人しか乗れない小さな船が、
タクシーとして行き来してくれる。
ただし、夜、高速で走る船の、
暗いライトが灯った船室で膝を抱えていると、
どうしても、この言葉が浮かんでくる。
《密航》
ただウチに帰っているだけなのに、
なにやら、悪いブツでも運んでいるような気持ちになる。
共に乗っている乗客とも、目を合わせないようにしている。
「追っ手」とか「検挙」とかのワードが浮かんでくる。
ふむ、あの海上タクシーの会社も、石丸だったかな?