芝居の舞台ってのは、出演している役者には、
その芝居そのものを観る事が出来ない仕組みになっている。
当たり前だ。
自分が出ているのだから、観ようがない。
ゆえに、観ようと思えば、袖幕の横から眺めるしかない。
しかし、それでは、照明の美しさや、臨場感は伝わってこない。
そこでだ・・
今回のお芝居のように、自分の出番のない時間帯が長い私の場合、
こそっと、客席に忍び込んでいる。
何度も忍び込んでいる。
暗くなってから、扉から、スルリと入り、
空いている後部の席に滑り込むのだ。
堂々としていれば、一般客と変わらない。
芝居は何と言っても、客席で観るに限る。
その目的で作られたものなのだから、当たり前だが、
面白い!
何度も観ている場面でも思わず、笑い声が出てしまう。
さて、そんな時だった。
舞台の左側の花道に、役者たちが去っていくシーンがある。
すると、客の顔が左横に向いてゆく。
当然、右隣の客の顔も左に向いてゆく。
そこには、私の顔がある。
目と目があった。
(あれっ、この人、最近どこかで見たなあ)
最近どころか、10分ほど前、舞台上で見ているのだが・・・
こんな所にいる筈のない人を見た場合、人は、
すぐにそれを忘れようとする機能が働く様で、
さして関心も抱かず、再び、顔を戻してくれたのだった。
ごめんね・・・