バイマーヤンジンさんのコンサートに行ってきた。
ヤンジンさんは、チベット生まれの歌手である。
日本に移り住み、大阪在住歴20年になる。
さて、私はコンサートの影アナウンスをしたことがない。
一度してみたいと常々思っていた。
「そうだ、ヤンジンさんにお願いしてみよう!」
お願いは、いとも簡単に承諾された。
舞台袖で、開演前のご案内を喋るのだ。
「携帯電話、スマホなど音の出る電子機器の電源を・・」
という、アレである。
いざ、という時の為に、きちんとした服装で行った。
いざとは何かと問われれば、よくわからないが、
いざである。
影アナとはいえ、劇場に足を踏み入れるのだから、
背広に蝶ネクタイは必須である。
さて開演5分前。
影アナを始めようと、マイクを握っていると、
袖に、ヤンジンさんがやってきた。
なにやら、おろおろしている。
ペットボトルの水をどうとかしたいらしい。
聞けば、舞台上に、飲み水を置き忘れてきたと言うのだ。
この舞台は、緞帳幕はなく、今出ていけば、丸見えである。
そこで、私が、置いてこようと云うことになった。
<いざ>がやってきた。
とことこと舞台上に出てゆく私。
水ボトルを所定の場所に置く。
チラと客席を見ると、満席である。
出てしまったもの仕方がない。
握っていたマイクで喋りだしてしまった。
影アナが、表に出て場内アナウンスをするという、
珍しいパフォーマンスをお見せする事になった。
影じゃないじゃないかという客の痛い視線を全身に浴びながら、
初めての影アナは、
影でなくなってしまったのだった。
影富士