驚きを通り越して、口があんぐりとはこの事だ。
千葉は房総半島の山に登った。
≪御殿山≫ ごてんやま 364m
登山口に車を停めて歩きはじめる。
我らイシマル探検隊の今回メンバーは、私を入れて3人だ。
出発してすぐに、農家の軒先から、
猫が、待ってましたとばかりに、とび出してきた。
まだ生後半年くらいの若いオス猫だ。
我ら探検隊は、足が速い。
タッタ、タッタと坂道を登ってゆく。
その我らを追い越し、水先案内をしてくれる。
始めのうち、
「そのうち、バテルさ」
勝手についてくる猫を追っ払うふりもせず、
なすがままに任せていた。
ところが、10分ほどしても、まだ坂道を追いかけてくる。
もう、さっきの農家から随分離れている。
猫が散歩をするテリトリーを超えている。
「もう、帰りなさい~」
我らの心配をよそに、小さな身体で、懸命に走っている。
人間のスピードに追い付くには、時折、全力で走るしかないのだ。
それでも、さすがに疲れるのか・・
我らを追い越すと、地べたにパタンと倒れる。
腹を上下させ、息を整えている。
その猫を跨ぐようにして、先を急ぐ。
やがて山の稜線に出た頃、心配になってきた。
この場所から、この猫は帰れるだろうか?
なんといっても、行動範囲が狭い猫だ。
犬じゃない。
道など覚えている筈がない。
「しょうがない、いざとなったら、リュックに入れて帰ろう」
そのうちバテルだろうと高をくくった我らは、頂上を目指した。
そして、頂上直下の崖のような傾斜道に来た途端、
なんと猫の四足が、その本領を発揮し始めたのだ。
疲れているどころか、
ヒィ~ヒィ~音をあげる我らを尻目に、
ピョンピョン跳ねながら、頂上まで駆け上がったのである。
超の付く元気いっぱいだ。
アナタに問いたい。
犬ならまだしも、猫が、364mの山の頂上まで、
登るのを見たことがあるだろうか?。
しかも、見ず知らずの他猫だ。
さっき、あったばかりのよそ猫だ。
他にも登山者がいたにも関わらず、
なぜか、我らに唐突についてきた。
そして、圧巻は下りのパフォーマンスである。
ヤツは、坂道を走り下り、我らを追い越すと、
手近の樹に飛びつくのだ。
バリバリと登り、一瞬の躊躇のあと、ドタリと落ちてくる。
まだ、木登りがさほど上手くない。
しかし、性懲りもなく、そのパフォーマンスを繰り返す。
10数回も繰り返し、自らの能力の高さを存分にみせつける。
とうとう、麓まで降りてきた。
信じられない!
登山する猫などいるだろうか?
しかも、走りっぱなしで・・・
ん・・まてよ、どこまでついてくるのだろう?
「まずいな・・」
っと、その時、とある農家の方たちが犬を連れて立ち話をしていた。
「すみませ~ん、この猫、どちらの家猫ですか?」
『あぁ、そのこネ、誰かが捨てていったんですよ』
「えっ?」
『人懐っこくてネ』
なんと捨てられたノラだったのだ。
ノラなのに、ご飯をねだるでもなく、我らと共に、
ただただ遊んだスーパーキャットだった。
本気で、君をサスケに出場させたいと思ったほどだった。
頂上でちょこっとだけ、オコボレのおにぎりを食べたこの猫は、
散歩中の犬におびえ、我らを追いかける足が出せなかった。
残念だが、そこでサヨナラをする我ら。
アイツはすごい!
南房総の地で、この冬を越してくれるだろうか?
しまった、名前を付け忘れた。
御殿山ってぇ事で、≪殿(との)≫と呼んでおこう。