「イシマルさん、出番です」
助監督がドラマの現場で呼びかける。
椅子を立ち上がる。
すると隣にいた役者もガタリと立ち上がった。
彼の名は、
《石丸幹二》いしまるかんじ
石丸と名のつく役者が、初めて共演している。
自分達にとっても珍しい事なので、
何か間違いがなければいいがと、ひやひやしている。
昨日の現場では、やはり名前問題が発生した。
それまで、助監督は我々を、役名で呼んでいた。
「松木さん」「里中さん」
ところが、二人が揃ったその現場で、なぜか・・
突然、助監督が、「石丸さん」と名前で呼び出したのだ。
「石丸さん、右へちょっとズレて下さい」
『え~っ、どっちですか?』
「あっ、ごめんさない、ご自分の右です」
『ですから、
どっちの石丸ですか?』
「あ~あ~イシマルさんの方です」
コントのような場面が繰り返される。
石丸謙二郎
石丸幹二
他人から見たら、
田中美奈子と田中美佐子の違いにしか感じないのかもしれない。
それにしても、なぜ、助監督は二人が揃った日に限って、
突然、「石丸さん」と呼び出したのだろう?
はは~~~ん、きっとアレだな?
<呼び間違いがない>
役者の名前を呼び間違って、気まずい思いをする可能性がない。
安易に流れたのだ。
ところで、二人はどうやって呼び合っているか?
「ねえ、けんじろうさん」
『なんだい、かんじ君』
「助監督が呼んでますよ、石丸さ~んって」
『ねえ、かんじ君』
「はい、けんじろうさん」
『今日、かんじ君、差し入れしたでしょ』
「ええ、もみじ饅頭」
『スタッフが、僕に、ごちそうさまって言ってたヨ』