
通いの魚屋で、鯖を見つけた。
その途端、目が鯖にひきつけられる。
主役が鯖になる。
他の魚は、悲しいかな脇役に回される。
鯛だのワラサだのヒラメだの、
いわゆる高級魚すら、脇役だ。
鯖の目踏みが始まる。
「ふむ、
さほどの鯖ではないナ」
ないナと、目利きしたにも拘わらず、
いつのまにか、買い物籠にそいつが、いる。
鯖がいる。
いるからには、シメサバを造りたくなる。
造りたくなる気持ちを最大限尊重し、
塩と酢をマナイタの横に、はべらし、包丁をふるう。
さほどでない鯖を、それなりにしようと画策する私がいる。
「頼むから、やる気になってネ!」
酢の中に、北海道は、歯舞(はぼまい)産のコンブを仕込み、
やる気を促す。
「♪~シィ~メ鯖、シィ~メ鯖!」
待つこと、5時間。
さほどでない鯖を説得し、時にはムチをふるい、
はぼまいまで参加してもらい、
どうにかこうにか、夕餉の皿に盛り付けられた。
舌が鼓をうった。
ふむふむ・・ここで、鯖好きとして、
正しい言葉を吐かなければならんだろう。
《鯖に貴賎はない!》