
武甲山(ぶこうさん) 1304m
東京都の秩父にある山である。
43年前、イシマルが、17才の夏だった。
大学生になって、東京にやってきた時に、西武線沿線に住んだ。
買い求めた地図で、東京都を眺めると、
地図の一番左端に、高い山がある。
「東京にも、山があるのか?」
東京は、関東平野だとばかり思い込んでいた青年は、
すぐに、リュックを背負って、西武線に乗り込んだ。
東京に出てきて初めての登山である。
気負っていた。
アパートにあった書籍を、キスリング(当時のリュック)に、
入るだけ詰め込んだ。
重くして、身体を鍛えようとしたらしい。
書籍と言ったが、
ハードカバーの小説である。
大分の実家の
全集シリーズから抜粋してきたモノだ。
いちいちハードの硬い箱に入っている。
<戦争と平和> 全3巻 トルストイ
<罪と罰> 全2巻 ドストエフスキー
<カラマーゾフの兄弟> 全2巻 ドストエフスキー
<白痴> 全2巻 ドストエフスキー
<谷間の百合> バルザック
<アンナカレーニナ> トルストイ
<チェーホフ戯曲集> チェーホフ
その他、その他~
ぎっしり、詰め込まれた。
馬鹿に重かった。
30キロを軽く超えていた。
秩父駅に降り立った時、すでに嫌な予感がしていた。
とりあえず、青春とは一歩を歩き出すようだ。
武甲山の北側斜面は、その当時から、石灰石の採掘で、
重機がはいり、山肌が削られていた。
その脇を、登ってゆく。
ギシッギシッ
肩に、食い込むのは、トルストイだのドストエフスキーだ。
キスリングの中身は、本と水筒だけなので、
背中の部分にハード本の角が当たる。
チェーホフが痛い。
7合目にたどり着いた頃、突然、本を捨てたくなった。
トルストイが嫌いになりかけた。
まだ読んでいない<白痴>。
読んでる最中の<戦争と平和>
山に不必要なモノを持って行ってはいけない事を、
武甲山が教えてくれた。
<罪と罰>も教えてくれた。
青春が愚かだったのか?
私が愚かだったのか?