
「サップで、与論島を一周しよう!」
誰ともなく言い出した。
誰じゃない、言い出したのは私だった。
与論島という島は、与論マラソンが行われており、
周遊道路は、一周20キロの長さがある。
その周りの海であるから、一周すれば25キロほどになる。
勇気ある隊員が4名集まった。
滝田、タメトウ、ユキコ、ネーヤン
われら5人は、百合が浜で、出発の雄たけびを挙げた。
《快晴、西の風3m、中潮》
与論の海の達人、シゲ、カズ兄弟のありがたき意見をいただき、
南回り(時計回り)で漕ぎだした。
出発してすぐに、足元の海中を亀が泳ぎゆく。
ものの5分で、滝田くんが、バランスを失って海中に落下する。
笑われる。
そういえば、滝田くんは、サップの素人だった。
そういう私とて、いばれたものではない。
あとを追うように、転げ落ちた。
笑われた。
岬の灯台を過ぎると、向かい風になる。
風速3m。
微風ではあるが、サップの場合、ちと苦しい。
漕いでも漕いでも、進んでいる感じがしない。
休憩のたびに、背中に担いだ、
ストリームトレイルの防水鞄から水を取り出しあおる。
飲んでも飲んでも、のどが渇く。
サップとは、言ってみれば、海の上のマラソンだ。
誰が、「一周しよう」などと言い出したのだろう?
10分の一の辺りで、言いだしっぺが、反省をしだす。
漕ぎに漕いで、4時間半。
ついに半分の場所までやってきた。
ここで、隊は二班に分かれる。
ハーフで終了するモノ。
一周するモノ。
後者には、滝田くんとネーヤン、そして私の3人だ。
急がねば、サスペンデッドになる。
しかし良いことに後半は、
風が追い風となり、しかも潮の流れも追いとなる。
「さあ、走れメロス、まだ陽は沈まぬ!」
漕いで漕いで漕ぎまくった。
「おお~亀の群れだ!」
滝田くんが、嬌声をあげる。
ターコイズブルーの浅い海の中を、何10匹もの亀が、
泳ぎ回っている。
50センチ~1mほどの海亀だ。
漕いだ漕いだ・・・
2秒に1回漕ぐという計算で、換算すると、
約
1万回漕いだ。
出発してから7時間15分。
ついに出発地点の浜が見えた。
朝日を見ながら挙げた歓声を、
夕景の中で、再び挙げることになった。
7時間以上漕ぎ続けた我ら・・
その夜、ビールをあおるなり、バタンキュー。
そして翌朝、ロボット歩きの我らがいた。
この10年で最も疲れた日、と言っていいだろう。
「もう一度やろう」などと、
誰かが言い出さないことを祈る。
誰かとは、たぶん・・私・・・だろな。

朝日を受けながら

向かい風に苦しむ

後半は、 滝田、 ネーヤン、 イシマル

亀が乱舞する ターコイズブルーのラグーン

与論島一周成功