
箱ワインが世に出て、久しい。
瓶との違いは、機密性である。
一度、封を切ったワインが、空気に触れる事なく維持できるので、
冷蔵庫にしまっておけば、味が落ちることなく飲み続けられる。
箱ワインを教えてくれたのは、医者の大畠先生だ。
自宅やら旅先でも、人数が揃うと、箱ワインの封を開けてくれる。
3ℓの箱ワインの蛇口から、グラスに注ぐ。
ワインが酸化しない仕組みは、箱の中にある
ビニールの袋だ。
ワインが減った分、ビニールが萎んでゆく。
今、市販の醤油の入れ物と同じ考え方である。
(どっちが先に出たんだっけ?)
「あれっ、出なくなりましたヨ」
箱ワインが、カラに近づいたと、誰かが言っている。
すると、大畠先生が、箱を掴み、箱をバラしてゆく。
バリバリバリ
出てきたのは、透明のビニール袋だ。
ビニール袋の中には、葡萄色のワイン。
つまり、
朱色の液体が少量残されている。
そのビニールを、医者である大畠先生が掴んでいる。
「グラスを、どうぞ」
どうぞと言いながら、先生が、朱色の液体を、
ビニールから絞り出してくれる。
グラスを持った私。
ドキッ
私的には、手術室で、
《
外科医の先生が、輸血をしてくれている姿》にしか見えない。
最後の一滴まで絞り出した先生。
「成功しました」
と言われる筈もないのだが、なぜか安心してしまう。
っと、ふと思ってしまった。
コレが白ワインだったらどうだろう?
ビニールの中に残った透明の液体。
「○子さん、コレ持っててくれます、グラス取ってきます」
言い置き、大畠先生が場を離れる。
たまたま透明ビニール袋を持たされた女性が、私の横に立っている。
(え、え、ええ~コレって、点滴じゃ~~ん!)

風呂釜をかぶせた黒ヤギの小屋