
大相撲初場所を、両国国技館で観戦していた。
中入り後が進んだ頃だった。
呼び出しが読み上げた関取は、
《琴勇輝》ことゆうき、と、《松鳳山》しょうほうざん。
今日の主役は、この琴勇輝である。
しきりが何事もなく行われ、やがて行事の軍配がかえる。
にらみ合うふたり。
しばしの沈黙と、間合い・・・
やには、ふっと琴勇輝が立ち上がった。
フライングである。
するとだ・・・
琴勇輝は、
正面に向き直り、両手を足の両側に合わせ、
お辞儀をしたのである。(冒頭写真)
あまりのことに、会場は一瞬、静まり返った。
そして、どこからともなく拍手が湧きあがり、やがて、
会場を埋め尽くす観客全員が、大きな拍手をおくったのである。
胸のすく瞬間とは、この時かもしれない。
昨今、「あやまる事」の不得手な人が増えた時代、
まさに、「申し訳ない」という気持ちを素直にさらしてみせた琴勇輝。
今日一番の拍手は、このお辞儀に対してだった気がする。
しかも、まわしだけの裸である。
これ以上の美しい謝り方もない。
日本人の心を、大観衆の見守る前で、堂々と魅せてくれた。
《琴勇輝》
香川県小豆島出身、佐渡が獄部屋、前頭十四枚目、24歳。
176センチ、173キロ。
ガンガンと前に出てゆく強烈な印象を与える力士である。
正しい礼をした後の取組でも、どんどん突き押して、
突き押し過ぎて、逆転され、土俵を割ってしまった。
観に来ていた観客の心をさらったのである。
私もさらわれてしまった。
この日、フライングはこの一回のみであった。
その一回が、美しい礼を導いたのである。
さあ、注目の力士は、
《琴勇輝》!

林家ペーパーも、琴勇輝の礼に拍手をおくる