
「う~む、春菊かあ~」
鍋を囲んでいる時に、出る言葉である。
「できれば、食べたくないなあ~」
正直な気持ちである。
ありとあらゆるモノを好む私であるのに、
なぜか、春菊だけは、積極的には食べたくない。
じゃあ、消極的なら食べるのかと聞かれれば、
消極的にも、避けて通りたい。
お店に行って、鍋を頼むと必ず、春菊が登場する。
これみよがしに見せつけてくる。
鍋に投入する食材で緑色した物体は、春菊だけだ。
春菊で、黄緑色野菜を摂取しなさいと促されている。
その春菊が、鍋の上にドサッと放られる。
やがてグツグツと煮られる。
それはそれで構わない。
知らんぷりすれば済む話なのだから。
春菊の苦い味が、鍋に移るわけでもない。
あくまで、知らんぷりすればいい。
ところが・・・
ここに、春菊大好き人間が、鍋の横に座っている。
春菊が投入されるや、もう、箸を伸ばしている。
ちょいと煮えただけで、あの草をついばんでいる。
あわよくば、草のお代わりを注文しようという勢いだ。
「さあ、食べて」
よせばいいのに、草を私の皿に取ってくれたりする。
そう、私にとってみれば、春菊は、ただの草だ。
野に咲く、草だ。
人に育てられた野菜ではない。
勝手に育った、野卑な草なのだ。
ヤギが、バリバリと喰らっている車前草(オオバコ)と同じだ。
鶏がガツガツとつついているヨモギと変わらない。
そんなに春菊が嫌いなのかと、問われれば・・・
「あのですネ、春菊天ってのがあるでしょ。
アレは、むしろ大好きです。立ち食いソバでは、
積極的に乗っけて貰ってますです・・ダブルとか」
春菊とは・・
あんな嫌いなモノが、
こんな好きなモノに変貌する不思議な奴です。

「どうした?」