「貝だけ食べて眠った事がありますか?」
貝だけと、言ったのは、その表現のままで、
貝類だけを胃袋に入れたという意味だ。
20年前。
「イシマルさん、ここ座ってください」
座らされたのは、海岸に設えたBBQセットの椅子だ。
目の前には、炭が熾され、網の上で、
様々な貝が焼かれている。
<サザエ、ハマグリ、アワビ、牡蠣、マテ貝>
ジュウジュウ煙を噴き出しながら、焼かれた貝達が、
踊っている。
貝は、焼かれると踊りだす。
アワビなんてのは、その最たるものだ。
自らの貝殻の上で、ダンスを踊る。
魚には出来ない芸当だ。
「ほ~い、まずはサザエいってみるか~い」
次から次と、焼けた貝が皿に乗っけられる。
ホフホフ~
立て続けに頬張る。
旨い!
ビールがすすむ。
「アコヤ貝も焼けたじゃぁ~」
珍しい貝を頬張る。
「マテ貝を食うてみてみぃ~や?」
「アワビ丸ごとかぶり付いたら、たまらんゼ!」
しかして、貝を食うだけ食った。
飲み物はビールだけだった。
つまり、その夜の夕食は、
<ビール>と<貝>だけだった。
野菜類いっさい無し。
ツマミ類いっさい無し。
ご飯類いっさい無し。
純粋に、貝だけ食べた。
さあ、アナタ、そんな食事したことある?
「ある」と答えたとしても、何か食べたでしょう。
刺身のツマとか、つきだしのネギとか、
最後に付いてくるタクアンとか・・・
ところが、私のその日は、完璧なる貝オンリーだった。
無理やり付け加えるなら、貝と、醤油だった。
そして、そのまま、ホテルで就寝となったのだ。
そこで、面白い現象が起きた。
40才の春である。
(眠れない・・・)
身体は疲れて、じっとしているのだが、
頭が冴えている。
ビールを飲んで、バタンキューかと思いきや、
脳が活性化している。
ランランと目が輝いている。
コレは、どうしたものだろうか?
『男としての精力噴火?』
いえ、違います。
ただ、頭だけが冴えている。
最終的に、10時間ほど、冴えたままで朝を迎えた。
コケコッコ~
起きる必要もなく、歯を磨き、顔を洗い、
「おはよう!」の発声、爽やかに、
ビックリマークの目玉をしたまま、皆に手を振り、
一日が始まった。
貝とは、これほどの力を持っている事が解った。
ゆえに、鎮めるモノが必要だ。
貝を食べる時は、添え物として、
野菜だの海藻だの、副食を食べないと、
危ない現象が起こるのだと、実感として理解した。
<貝だけ食べて眠る>
アナタに言っておく。
実験してみるのは、アナタの勝ってだが、
どうなっても知らんけんネ。