桜の季節は、急いだ方がいい。
ぼんやりと歩いていると、いつの間にか桜は散ってしまう。
「アチコチの桜を眺めたい!」
せっかちな私は、自転車にまたがる。
チャリの機動力を生かして、アッチの桜、ソッチの桜に旅をする。
「おお~」
「わぁ~」
いちいち感嘆の声を漏らす。
毎年何度も見ているハズの桜に、初めて見たような想いにふける。
「素晴らしい・・・」
一日に、何度も見ている桜に、ため息をつく。
「ハァ~」
一週間しか咲かないと決めた桜は、ずるい。
4年に一度のオリンピックよりは、ずるくないが、
まるで、桜たちが申し合せているようで、やはり、ずるい。
その点、
菜の花は、かしこい。
あの万巻の黄金色は、
じわっっと始まり、じわっっと終る。
いつ終わったかも教えずに余韻を残して去ってゆく。
樹木でない、ただの草だ。
自分がいたことすら残さずに、去ってゆく。
《菜の花》という名前すら、おかしい。
水仙とか梅とか、レンギョウとか。モクレンとか・・
花としての胸を張る名前ではなく、
《菜の花》と、
名前のようで名前でないような名前を与えられている。
「《野の花》でなかっただけでも良かったじゃないの?」
親戚のオジサンになだめられそうな名前である。
《菜の花》
奴は、おそらくその昔は、雑草だナ。
ヤツは、頑張ったんだナ。
なんとか誰かに振り向いて貰おうと、努力したのだナ。
桜に勝とうと、明るさを求めたのだナ。
いつか桜を抜いてやろうと、仲間と団体競技にしたナ。
そして、仲間と誓いあったのだ。
「桜より先に咲いて、桜よりあとで散ろうナ!」