
「イシマルさん、舌噛み事件簿3があるんですか?」
ある。
あまりにも悲しくて、人に言わずにおいた話だ。
できればこの話は、読んだらそのまま闇に放ってほしい。
時は、8年前、
場所は、我が家。
テレビ番組の収録中だった。
活きているブリの子供ワラサを、私が刺身にしている。
その刺身を、出演タレントと共に、食す場面だ。
「おぅ、うんまいですねえ!」
『うむ』
「誰が造ったんですか?」
『オレ!』
このオレと声を発した時、私の口中には、
ワラサの刺身が、踊っていた。
さっき、ワラサはブリの子供だと言ったネ。
つまり、ブリブリした魚である。
活きているワラサを私がさばいた。
ブリブリの極地である。
そんなブリブリを、刺身にして口の中に入れれば、
そいつが、口中を走り回るのは目に見えている。
噛もうとすれば、舌の周りを乱舞する。
逃げ回る刺身を舌が追いかける。
やがて、当然といえば当然の顛末が起こる!
『オレ』と発するや、思いっきりワラサを噛んだ。
ふんぎゅっ
噛んだのは、舌だった。
撮影が中断したのは言うまでもない。
血だらけのワラサが私の口から吐き出され、
一部始終を撮らなければならないカメラマンでさえ、
カメラをあさってに背けている。
皆の横目が、私にバカの烙印を押している。
当然、本番では流血シーンはカットされる。
そういえば、このシーンの直前。
私は、こう喋っている。
「この刺身の弾力さあ~舌と間違って噛みそうだよネ」