
先日来、都会のビルの外階段を昇り降りしている私だ。
そのビルには、各階に、様々な店が入店している。
そして、外階段の踊り場が、それぞれの休憩所になっている。
椅子と灰皿が置かれてある。
ガツンガツン
炎天下の中、30キロのリュックを背負って、
8階まで10往復、
息き絶え絶えで、登っている私。
休憩中の従業員の方が、親切に声をかけてくれる。
「こんにちは」
心は、応えたいのだが、息があがってしまっており、
声が出ない。
『ヒィ~~』
出たのは、悲鳴のような空気音だ。
「暑いですねえ」
『ヒイ~~』
昇り降りするという事は、しばらくすると、
同じ踊り場を通過するワケだ。
すると、時間経過しているので、
休憩している人間は入れ替わっている。
「こんにちは」
「暑いですねえ」
挨拶がくる。
『ヒィ~~』
10往復していれば、10通りの人間が入れ替わる。
下りならまだしも、登りで声を掛けられる。
ついに、『ヒィ~~』とも声が出なくなる。
うつむいたまま、前を通り過ぎる。
彼らにしてみれば、
アイソの悪い人にしか見えない。
ブスッとして行き過ぎる暗い男だ。
「なんだアイツ!」
しかし、私にも言いぶんがある。
10階まで、それぞれに休憩所があってですネ。
毎回、人が入れ替わるワケでありまして、
まるで、山の中で、厳しい登りをしている最中に、
団体の登山客と遭遇した時の、挨拶みたいで・・・
『こんちは、こんちは、こんち、こん・・・はあはあ』
そうか!
この登り下りは、挨拶訓練も兼ねていたのか?