
「踏み外す」、「たがが外れる」、「我を失う」。
この言葉はどんな時、使われるだろうか?
夜、街を歩いていたら、明かりが漏れる店に出くわした。
《いきなりステーキ》
最近、おおはやりの、
立ち食いステーキ屋だ。
前々から気になっていたのだが、踏み出せないでいた。
昨夜、腹が減っていた。
足が、「踏み出せ!」と命じている。
ドアをくぐった。
強烈な肉の香ばしい匂いがする。
「こちらにどうぞぉ~」
テーブルに案内される。
テーブルと云っても、高さが高い。
座るイスなどない。
あくまで、《立ち食い》だと認とめさせられる。
「肉を選んで、量を指定してください」
肉を選ぶ?
リブなのか、サーロインなのか、はたまたヒレなのか?
この時点で、「踏み外し」かけている。
量を選ぶ?
もう少しで、「たがが外れかけて」いる。
『300gをお願いします』
すると、目の前で、でっかい肉塊に包丁を当て、
ザックリと切り出してくれる。
秤に乗せると、354gだと示している。
「少し多めになりましたが、よろしいですか?」
『よろしいです、はい』
もう、「我を忘れ」かけている。
食べる前から、反省の弁が湧き起ってくる。
『こんな事をして良かったのか?』
っと、私の後ろに並んだ男性が・・
「リブステーキを500g」
凄い!
年の頃、50を超えたオジサンだ。
頼み方といい、待ち方といい、居住まいが慣れを感じさせる。
これまで、何度も通ってきたに違いない。
500gの重みも喰い応えも、理解した上で注文しているのだ。
354g程度で、「我を忘れ」かけてどうする!
ジュウゥゥ~~~!
アツアツの鉄板に乗せられて、
こんがり焼けた肉塊が差し出された。
冒頭の3つの言葉に、もう一つ足したい。
「没頭する」
喰らう事に没頭してしまった。
そして、意外だったのだが・・・
翌朝起きたら、又、食べたくなっていたのだ。