「ポールに入りましょう」
スキーの師匠、大畠先生が誘っている。
ポールとは、スキーの競技、回転<スラローム>だの、
大回転<ジャイアントスラローム(GS)>の、
マークに立っている棒である。
《ポールに入る》
つまり、タイムレースの練習をやりましょうと云う意味だ。
丸2年しかスキーをやっていない人間が、恐れ多くも、
そんな不遜な事をやっていいのだろうか?
「大丈夫です」
大畠先生が仰る。
医者に「大丈夫です」と言われれば、
内容は何であれ、
大丈夫なんだろうと納得してしまう。
気がつけば、申し込み用紙を提出していた。
GS(ジャイアントスラローム)
指定されたコースに立つ。
すでに、ポールがズラリと並んでいる。
傾斜は中級クラスほど。
青いポールと赤いポールが交互に、右左とジグザグを描いている。
10人ほどが集まった。
他の選手の着ているスキーウエアが、私と明らかに違う。
体にピッタリ密着したレース仕様の衣装だ。
腹が出た人はいない。
私の服は、ダブダブの、
いかにも遊びに来ました風。
その上から、ゼッケンをかぶっている。
私のナンバーは、100番!
大畠先生は33番。
「インスペクションして下さい」
コーチに何か、言われた。
『なんですか、大畠さん?』
「インスペクション、下見です」
コースをズルズルと下りながら、コースを下見してゆく。
全長400mほどのダウンコース。
(よし、インスペクションしたゾ)
再び、リフトで上がり、いよいよ、スタートだ。
スタート地点には、ポールが2本立っている。
その間に立ち、ストックを前に突き刺し、前傾姿勢で待つ。
レース本番だと、ここで、アナウンスが入る事になる。
「ゼッケン100番、イシマル選手、10秒前~」
やがて、電子音がピッピッピッポ~ン
この電子音が鳴っている間に、飛び出してゆく。
ポールギリギリを通過してゆく。
いや、ポールに体をぶつけながら、落ちていく。
ゴール地点には、コーチがいて、手まねきをする。
「もう少し、ヒザを柔らかく使いましょう」
ワンポイントアドバイスをしてくれる。
2本目を滑り降りる。
「固まってしまってます」
「慣れてきましたネ、さらに動かして」
「リズムよく、体重移動を」
2時間で、10本ほどの滑走。
ああ~面白かったぁ~
医者が「大丈夫です」と言った時は、信用した方がいい。
(冒頭)今年のワールドカップ開催 苗場スキー場回転コース