
「いったい、どういうことなんじゃ?」
時は、中学2年である。
50年ほど前の、田舎の中学校だ。
「今日は、郊外授業で映画館に行くけんナ」
学年全員で、町に一軒ある映画館に向かった。
当時の映画館は、二階が畳の桟敷になっていた。
館内が暗くなっただけで、中学生はどよめいた。
題名がスクリーンに映し出される。
《愛と死をみつめて》
だったような気がする。
吉永小百合が登場し、その恋人が浜田光男。
白黒映画だ。
さて、悲しい物語は終盤をむかえ、
病院のベッドの横のパーティションの奥に、吉永小百合が隠れると、
衣服を脱ぎ始める。
やがて、パーティションから、姿をあらわ・・・
っと、突然、画面が白くなり、館内が明るくなった。
壇上に先生が出てくるなり、
「はい、本日は終了じゃけん、帰るで」
(いったい、ど・どげんこつなんじゃ?)
最後まで観せてくれなかったのだ。
女性の裸?ラブシーン?を見せてはならない、
と先生たちが考えたのだろうが、
であれば、そのシーンだけとばして、
最後まで観せるのが映画鑑賞だろう。
そもそも先生は、前もって、観ていた筈でないのか?
こんな中途半端な見せ方をするくらいなら、
他の映画にすればよかったんじゃないのか?
生徒にとって、たぶん初めての映画館での映画鑑賞だ。
生徒達は、映画とはこういうものだと、うえ付けられたに違いない。
私は、たまたま、爺さんが映画館を経営していたので、
映画を観た経験があった。
最初に日の丸がはためき、次にカメラが映り、ニュースがかかる。
そのあと、本編が大音響で始まるのである。
最後は、<終>の漢字が遠くから近づいてきて終わり、明かるくなる。
つまり、生徒たちは、<終>の漢字を見ていない。
出演者たちの名前ロールも知らない。
たぶん、あの中学のあの学年から、将来映画に関わる人は、
出なかったと察せられる。
そして私自身、あの時の映画の結末をいまだに知らないままなのです。
「いったい、どういう・・・」