
「俺たちはヨ、クジラで育ったもんだ」
オジサンが、得意げに語っている。
「給食の肉といえば、クジラだったゼ」
今の若い人がクジラに出会う機会が少ない事をいいことに、
オジサンが、
クジラを食べた自慢をしている。
給食の肉=鯨カツ
この話は、私もたびたびしていた。
無意識にクジラ食べた自慢をしていた気がする。
ん・・・まてよ?
そんなにクジラ食ったかナ?
給食で鯨カツをそれほど頻繁に食べたかナ?
クジラの大和煮をそれほど食ったかナ?
食べた印象は確かに強い。
しかし、当時とて、クジラは決して安い肉ではなかった。
あふれていたが、毎日食べられるほど、お手軽ではなかった。
サバやイワシやアジなどの大衆魚の方が、圧倒的に安かった。
自宅でクジラにありつけるのは、
ありつけるだけの理由のある得異日だった。
勿論、たくさん食べた方もいるだろう。
しかし、私は、実際そんなに食べただろうか?
サバには育てられたと言い切れるが、
クジラに育てられた印象はない。
「あんた、クジラの町に生まれなかったからだろ?」
という指摘もあるだろう。
では、最近の私の友人インタビューを聞いてもらいたい。
「ねえ、クジラって、そんなに食ったぁ~?」
『食ったヨ、毎日、給食とかで』
「毎日?給食にそんなに頻繁に出たかい?」
『まあ、ときどきかなぁ~』
「自宅で頻繁に食べたかい?」
『頻繁じゃないけど、カツでネ』
「週に1回食べた?」
『いや・・どうかな・・』
「2週に1回?」
『そんな時もあったけどまあ、月に1~2回かな』
「なんで、クジラ食ったことを誇張するんだろう?」
『今、食えないから、自慢だろな』
「君は、クジラで育ったと言えるかい?」
『いや、オレは、ジャガイモで育ったナ』
同世代数人に聞いた結果は、おおむねこんなだった。
街のスーパーでは、ただ、《クジラ》として、売っているが、
築地魚河岸では、その種類まで、明記してある。
《シロナガスクジラ》
《ミンククジラ》 などなど
仲卸しの隅の棚に、控えめに売られている。
ただし、貴重品として。

最小の魚たち シラス