海外から旅行者がやってくる成田空港や羽田空港、
東京駅など主要なターミナルに、冊子が置かれている。
《TRAVELER》
その表紙が、冒頭の写真。
洞窟の写真だ。
《ジャパン・ケーブマン》との表記がある。
氷筍(ひょうじゅん)の奥に、
ヘルメットにヘッドランプの男が立っている。
男が吐いた息が頭上にのぼり、ランプの明かりで白く光っている。
写真が撮られた場所は、富士山の噴火口の中だ。
直径1mほどの入口から、
クネクネした縦穴を30mほど降りたところに、
マグマ溜まりの広い部屋があり、
その昔、噴火した際に、
内部が高温にさらされていた事を物語る美しい赤い壁に囲まれている。
現在この縦穴は、氷で塞がれ、入洞できない。
氷が解けるであろう10年後を待たねばならない。
なぜ、私がそんな事を知っているのか?
この男は私なのである。
ここで、「え~~!」と驚いてくれると助かる。
「なぜ、アンタが表紙に!?」と素っ頓狂な声を出してくれると、
話を進めやすい。
この冊子は、海外からの来訪者に、日本にある自然の美しさや、
様々なアウトドアアドベンチャーを紹介するのが目的だ。
冊子を作る際、
様々なアドベンチャーな方から写真を集めていたらしい。
洞窟探検家の吉田勝次さんの写真も送られた。
その中に、どういう訳か、イシマルの写真が紛れ込んでいた。
写真を精査した結果、
この写真が素晴らしいということになったらしく、
見事、表紙を飾ることになった。
ところが・・・
実際は、吉田さんの写真ではなかった事が、のちに判明する。
じゃ誰なんだ?
調べた結果、
洞窟好きな役者だと判明した。
しかし、すでに、冊子は出来上がってしまっていた。
どうする?
ええいままよ、顔も小さくて誰だか分からないも~ん。
と言ったかどうか知らないけれど、
すべては、「まいっか」で冊子は予定通り、
主要ターミナルに置かれる事になった。
吉田さんも、「まいっか」で納得しており。
事務所も、「まいっか」で通過しており、
本人も、「まいっか」と肩をすくめている。
「このヒ~ト、ダレでぇすか~?」
来訪者にどう説明したらいいのかなあ~
本物の吉田勝次さん