37年前、つかこうへい率いる劇団の稽古場に、
ひとりの漫画家が現れた。
《大友克洋》おおともかつひろ
当時すでに評判の、新進気鋭の漫画家だった。
のちに、<AKIRA>を発表し、
その発想とスケールのでかさで漫画ファンのどぎもを抜いた。
さて、画伯は、稽古場に現れるや、しばらく稽古を眺めていた。
やがて、持ってきた画用紙?にサラサラとデッサンを始めた。
どうやら、我ら役者とつかこうへい氏をスケッチしている。
その作品は、のちにある雑誌に載せられた。(冒頭)
描かれた役者は、風間杜夫、平田満、長谷川康夫、高野嗣郎、
重松収、かとうかずこ。
そのデッサン力は素晴らしく、全員そっくりである。
顔だけでなく、動きも見事に表現されている。
ところが・・・
この中で、イシマルだけ、
顔の輪郭は描かれてあるのだが、
中身がない。
目や鼻がない。
表現力が正確きわまりない大友画伯にして、
イシマルの顔の印象がなかったらしい。
思い起こせば、当時、私はつかこうへい氏に、
《ムキ卵》などと呼ばれていた。
色白で、ツルンとした顔の25才の青年だった。
しかし、漫画家さえ画けない顔を持つ役者がいるだろうか?
むしろ最も役者に向いていないのではないだろうか?
印象に残らないという特技を生かすとすれば、
探偵事務所に勤めた方が賢明というものだ。
このイラストデッサンは、つい最近発掘された。
37年間、眠っていたと言っていい。
その当時、中身のない顔を持つ私を、私が見て、
その意味をしっかり認識する能力が私にあれば、
たぶん、役者の道に進まなかったであろうと推察される。
左端の黒いティシャツがイシマル
下の5カットが、つかこうへい氏