秋田県に泥湯温泉がある。
そこに、古くから営業している素敵な旅館があった。
《奥山旅館》
この旅館が突然焼失してしまった。
火事である。
おひとかたの訃報も報道された。
10年ほど前から、時折訪ねては、静かなたたずまいの秘湯に、
身をゆだねるのが好きだった。
御主人とも、酒を酌み交わし、満室の折には、
囲炉裏部屋に寝かせてもらった事もある。
御主人が語る若き頃のやんちゃぶりに大笑いしたものだった。
泥湯というだけあって、真っ白い泥が湯の底に沈殿し、
手ですくって、顔や髪になすりつける。
その後洗い流すと、まるで髪が、
子供の頃みたいにすべすべに若返るのだった。
車でちょいと走ると、河原毛温泉という、
滝が温泉になっている珍しい珍名所もあり、
長逗留したくなる秘湯ナンバーワンと格付けしていた。
再建なさるのかどうか、いったいどうなるのか心配である。
まずは、お手紙を書いて投函したのだが、
なにせ全焼ゆえ、果たしてどこに着くのだろうか?
なるべく早いうちに尋ねたいと思っている。