そこは、和歌山にあるホテルだった。
朝7時に始まる朝食バイキングが待ちきれず、
ロビーをうろつく腹ペコ人間だった。
7時の時報がなるや、すぐさま、バイキング会場におもむく。
入った途端、目の前に梅干しの大群が陳列してあった。
さすが和歌山!
何十何百の梅干し。
様々な種類があるらしく、塩分量と共に、その銘柄が記されている。
シソを使ったのとか、蜂蜜が入ったのとか、古来から続く梅干しとか。
その前に立つ私の口の端からは、涎がタ~ラタラ。
梅干しに異常に反応する私の唾液が、私を溺れさそうとする。
速くこの場を去らねば!
何百あろうが、選んだのは一つだ。
塩分の一番少ないヤツだ。
ほんの数秒で、一週間分の唾液を消費した。
バイキングの料理を次々にかっさらって、席に着き、
納豆を混ぜていた時だ。
「お待たせいたしました、これから、
マグロの解体ショーを始めます」
高らかな宣誓とともに、20キロのマグロが、登場し、板さんが、
長い包丁を振りかざし、見事にさばいてゆく。
捌きながら同時に、カクゼツの良い口上が続く。
ところが・・・
この日は、宿泊客が極端に少ない日だった。
廻りの観光施設が、工事中のお休みとあって、
ホテルも開店休業に近かった。
当然、レストランも閑散としている。
解体ショーを見学しているのは、私を含めて5人。
もう少し遅い時間なら、客も増えただろうが、
マグロは解体しなければ、朝食を食べに来た客全員にお出しできない。
結局、目だけで、マグロをいただいたのである。
納豆2 海苔2、カレーは欠かせない