蒸気トラクタ
私の目には、農場は、イギリスも、ロシアも、イタリアも、
みんな北海道である。
広々として、しかも斜めに傾いた土地に、小麦を植え、
ジャガイモの花を咲かせ、
牧草を育てている。
本州では、田んぼが主流であるからして、平面の農地となる。
しかし、平地以外も苦労して開拓した北海道は、
斜めが基本だ。
そんな広大な農地を人間の手足だけで、耕すのは無理だ。
そこで、早い頃から、トラクタが導入された。
トラクターではなく、トラクタと呼ぶらしい。
上富良野の村をレンタカーで流していると、
見た事のない施設を見つけた。
《土の館》
観光客には不人気らしく、観光バスはとまっていなかった。
そこで、注目すべきトラクタに出会ったのである。
いにしえに使用されていた旧型のトラクタが陳列されている。
数10台が、元の持ち主の名前を明記して、
並べられている。
さながら、クラシックカーの名車展覧会だ。
ポルシェのトラクタがある。
ベンツのトラクタがある。
フォードに、フィアットのトラクタがある。
勿論、日本製のクボタもある。
イセキもあった。
そのトラクタが引っ張るのは、日本語に訳せば、
鍬である。
その道具は、《プラウ》と呼ばれる。
土の館には、プラウが大量に陳列されている。
どうやら、プラウがすべてを決めるらしい。
プラウの出来不出来で、土の耕し方が変わり、
農業そのものに影響するのだと書かれている。
書いたのは、プラウ造りに生涯をかけた北の偉人、
<菅野豊治> すがの とよじ
実は、土の館とは、菅野豊治氏の記念館なのだ。
現在、スガノ農機は、日本のプラウ市場の8割を生産している。
日本の畝は菅野さんが耕していると云っていいかもしれない。
観光バスは来ないかもしれないが、
他県ナンバーの乗用車で来られたご夫婦が、
長い時間、プラウの一つ一つに向けるまなざしには、
頭が下がった。
知らなかった、プラウ。
今知った、プラウ。
今後、農機具を見る私の目は、確実に変わるだろう。
ポルシェ製トラクタ
フィアット製トラクタ
プラウ