
「台風と、音もなく緞帳があがる瞬間が好き」
30年ほど前、舞台のインタビューで答えた事がある。
緞帳(どんちょう)とは、舞台と客席を隔てる幕である。
台風とは、忌み嫌われる自然現象だ。
地震、雷、火事、オヤジには含まれていないが、
日本に住む者にとっては、その筆頭にあってもおかしくない。
ところが・・子供にとって、台風とは、
秋に訪れる取っておきのイベントなのである。
大人たちが、珍しく真剣な顔でアタフタする瞬間が観られる、
稀有な時間なのだ。
絶対壊れないと思われる家が、吹き飛びそうになる怖い日だ。
滅多にない停電を味わう日でもある。
家になぜかいっぱいあるロウソクが、
突然活躍する日とも言える。
「誕生日じゃないからネ、吹き消したらダメ!」
お母さんが、宥めたりしている。
ゴオォ~~~~~~
ガタンガタン、ピシッ!
風音の圧力で恐怖を感じる。
ピィ~~~~~~~
電線が、ヒステリックに鳴き叫ぶ。
怖い!
この時、子供達は知る。
怖れる気持ちと、ワクワクする気持ちは似ているのだ・・と。
やがて成長し、
舞台なんぞに関わった大人が、つぶやくのである。
「台風と、音もなく緞帳があがる瞬間が好き」

相模湾