イシマル 杉山 伸ちゃん 滝田 ツッシー
「遠足だ!」
子供の頃の遠足の前夜は、興奮して眠れなかった。
眠れないならまだしも、鼻血を出した。
遠足のたびに鼻血を出す次男坊を生んだ母親は、悲嘆にくれた。
歳月が流れた。
「おおい~遠足に行くゾ!」
召集をかける。
「神奈川県、三浦半島の
逗子駅に集まれ!」
5人の鼻血野郎たちがリュックをしょって駅を降りた。
ここから、山の中を歩き続け、
衣笠駅まで、走破しようというのだ。
子供の頃の遠足が、最大10キロならば、
おとなの我々は、20キロの大遠足である。
最大標高は200mに過ぎないが、
なんたってアップダウンの多い山行き。
累積登り標高は、700mを軽く越えるだろう。
「弁当はいらない、水も500mlでいい」
途中に、
うまい蕎麦屋があると説明した。
5人の仲間は、蕎麦が大好きである。
蕎麦の為なら、山を超え、何時間でも歩けるだろう。
なんやかや・・・
数時間後、腹ペコになった我らは、山中を抜けた。
道路におりたち、すぐさま蕎麦屋に向かう。
身も心も蕎麦一色になった5人が、そこで見たものは・・
《定休日》
はいつくばった。
肩ががっくり落ちきった。
目をやると、道路の反対側にラーメン屋の旗がひるがえっている。
「ラーメンにする?」
おそるおそる提案すると、
キッと睨まれた。
蕎麦飢餓状態の体に、ラーメンは入ってこない。
代用はできないのである。
「妥協できませ~ん!」
しかたなく、我々は、蕎麦屋の前の駐車場に座り込み、
リュックの中からチョコレートだのクッキーだの、
飴だのをとりだし、非常食としたのである。
つまり、遭難したことにしたのだ。
そういえば、一昨年やはり山の中を歩き、
この蕎麦屋に辿り着いた時も、確か定休日だった。
あの時も、滝田くんが一緒だった。
ってえことは、原因は
滝田くんのセイじゃないのか?
しかし、皆は滝田くんに優しかった。
その上、隊長である私に対し、
(定休日くらい調べといてくださいヨ)
とのアクタイを吐くこともなく、
さらに10キロ先にある衣笠駅をめざしたのだった。
だぁってぇ、
「子供の遠足は、チョコレートやお菓子を食べるのが、
テーマだったじゃないか!」
言い訳は、むなしく秋の空に吸い込まれていくのだった。